結論|有給消化は原則「会社は拒否できない」。ただし“時季変更権”の正しい理解が必須

マル、有給休暇って“会社が忙しいから無理です”で断られるものだと思っている人、まだ多いんだよね。

確かに、よく聞きます!でも実際は…?

法律上、有給休暇は“労働者が時季(いつ使うか)を指定して取得できる”と書かれているんだ。原則として会社はこれを拒否できない。ただし例外があってね、それが“時季変更権”という制度なんだ。

なるほど…つまり、拒否できるのは“特別なケース”だけなんですね!
まず押さえるべき法律の基本(労基法39条)
有給休暇を定めるのは 労働基準法39条。
ここには「使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。」とあり、非常に強い権利として認められています。

ここで重要なのは“請求する時季に”という部分。つまり、労働者が休みたい日を指定できるのが原則だよ。

思っていた以上に、労働者の権利が強いんですね!
会社が拒否できるのは「事業の正常な運営を妨げる場合」に限定

ただし例外があって、その例外の条件とハードルがとても高いんだ。“事業の正常な運営を妨げる場合”という要件を満たしたときだけ、会社は取得日を変更することができる。

それが“時季変更権”ってやつですね。

そう。ここを誤解して『忙しいからNG』だけで却下しちゃう会社もあるけど、法律上はその判断だけでは足りないよ。
時季変更権とは?会社が行使できる“本当に狭い範囲”

マル、時季変更権は“会社の都合で有給を自由に断れる制度”じゃない。むしろ、法律上は“極めて限定的に行使できる権限”なんだ。

そうなんですね!じゃあ、行使できる条件を知りたいです。
時季変更権の成立条件
会社が時季変更権を使うためには、「労働者が希望する日に有給を取られると、事業の正常な運営に支障が生じるかどうか」が基準になります。
具体的には、次のような事情を総合的にみて判断されます。
- 特定の日に有給を取得されると、業務の運営に大きな支障が出る
- 配置転換やシフト調整、代替要員の確保など、支障を回避する手段が講じられない
- 客観的にみて、時季を変更する必要があると認められる
※法的根拠:労働基準法第39条第5項

このハードルは実務上かなり高い。裁判例でも、“一時的に忙しい”とか“人が足りない気がする”といった理由だけでは、時季変更権が認められにくい傾向があるんだ。
※もっとも、時季変更権はケースごとに判断されるため、本当に事業の正常な運営に支障が出る場合には行使が認められることもある。

つまり、“なんとなく困るから”では使えない制度なんですね!
「忙しいからダメ」は法律上NG

単に忙しいという理由だけでは、時季変更権の正当な根拠にならないよ。
- 忙しい
- 人が足りない
- 急ぎの業務がある
こうした理由は一般的過ぎるため、法律上は不十分とされています。
※「忙しい」等の抽象的な理由のみでは足りませんが、業務の特殊性や人員配置、代替要員確保の困難性など、具体的事情が重なる場合には時季変更権が認められる可能性もあります。

よくある会社の断り文句ですが、それだけだと法律的には弱いんですね!
行使する場合の会社の義務(代替時季の提示など)
会社が時季変更権を適法に行使するには、単に「その日は無理です」と断るだけでは足りません。
一般に、会社は“他に取得できる具体的な日程(代替時季)”を提示するなど、労働者と十分に調整を図ることが望ましいと解されています。
これは、時季変更権が「取得日の変更」を意味しており、別の日を示さない一方的な拒否は、トラブルの原因となり、適法性が争われやすくなるためです。

ただ“ダメです”と言うだけでは行使したことにならないんだ。会社の都合で変更をお願いする以上、代わりの日程を具体的に示すなど、きちんと調整することが望ましいよ。

知らなかった…!ちゃんと“代わりの日”を出した方がいいんですね。
有給を拒否されやすいケースと、実際に許されないケース
退職前、有給をまとめて取る場面では、拒否されるケースが多いと言われますが、法律上は慎重な判断が必要です。
繁忙期・人手不足を理由とした拒否
繁忙期に「全員が休まれると困る」という会社の事情は理解できます。しかし、裁判例でも 繁忙期だからといって直ちに時季変更権が認められるとは限らない という姿勢が示されています。

会社の気持ちも分かるけど、法的には慎重に判断しないといけないね。
退職前の有給消化を妨げる対応は法令上問題となるおそれがある

特に退職前の有給はね、会社が時季変更権を使うことはかなり難しいとされているんだ。
※退職前の有給については、会社が時季変更権を行使するための「代替日の提示」が事実上困難であるため、時季変更権が認められにくいとされる傾向があります。

えっ、どうしてなんですか?

だって、退職日以降に有給を振り替えることはできないからね。つまり“代替日を提示できない”以上、時季変更権の前提が成り立たないんだよ。

なるほど…退職前の有給拒否がほとんど認められないのは、その理由なんですね。
「有給は事前申請ルールがあるから却下」は妥当か?
社内ルールで「有給は1週間前までに申請が必要」とある場合でも、そのルールが不当に取得を制限するものであれば無効となる可能性があります。
※就業規則の事前申請ルールが直ちに無効となるわけではありませんが、取得を実質的に妨げるような運用がされれば、行政指導の対象となる可能性があります。

会社は一定のルールを決めていいけど、法律より強いルールは作れないからね。
退職前の有給消化は取得しやすい?実務で起こりがちなトラブル
退職日を一方的にずらす会社の対応は許される?
「引き継ぎが終わらないから退職日を延ばしてほしい」これを理由に退職日の変更を求められるケースがあります。

退職日は法律上“会社の承諾が必要”ということにはなっていない。労働者が一定期間前に申し出れば退職できるのが原則だよ。
※民法627条の「期間の定めのない雇用契約」の場合、労働者は原則として退職の申し出から2週間で退職できます。ただし就業規則に1か月前等の定めがある場合は、合理的範囲で効力が認められるとされています。
※なお、期間の定めのある雇用契約(いわゆる有期契約)の場合には、原則として契約期間中に一方的に退職することはできず、民法の規定とは取り扱いが異なるため注意が必要です。
「引き継ぎが終わらないから有給は無理」と言われた場合
引き継ぎと有給取得の優先順位については、一般に 有給取得が優先される と解されています。
※有給取得と引き継ぎの関係については、裁判例でも、引き継ぎの必要性のみを理由に時季変更権の行使を認めることには慎重な傾向があるとされており、会社都合のみで取得を制限することは適切ではないと解されています。

でも引き継ぎは会社側も困るのでは…?

もちろん会社も困ることはあるし、本来は労働者もできる範囲で協力するのが望ましい。
でも法律上は、引き継ぎより“労働者の有給休暇の取得権”が優先されるという考え方が基本なんだ。
引き継ぎよりも労働者の権利が優先される理由
- 有給は法律で保障された権利
- 退職日を過ぎて代替日を設定できない
- 有給取得を妨げると違法リスクがある
※もっとも、労働者にも引き継ぎに協力する信義則上の義務があるとされており、可能な範囲で業務整理や引き継ぎ資料の作成などを行うことが望ましいとされています。

だからこそ、退職前の有給は原則として認められやすいんだ。
会社がやってはいけないNG対応(法的リスクあり)
有給申請書を受け取らない・提出させない

申請書を受け取らない対応は、法律上かなり問題視されるよ。
※有給申請書の受理を拒む行為は、結果として時季指定権の行使を妨げるものと評価され、労働基準監督署の指導対象となる可能性があります。
有給申請を退職理由で制限する
「退職者は有給を使えません」これは法律上認められていません。
有給取得を理由とした不利益取扱い(降格・評価減点など)
有給取得を理由に不利益な扱いをすることは、労基法39条の趣旨に反する可能性があります。
※なお、有給取得を理由とした不利益取扱いは、労基法39条に基づく権利行使を阻害する行為として、行政指導や是正勧告の対象となる場合があります。
※厚生労働省も通知において、有給取得を理由とする不利益取扱いは禁止されるべきものと明示しており、評価・配置転換等への影響を与えることは慎重な対応が求められます。
※この点については、労働基準法附則第136条において、第39条第1項から第4項までの規定による有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない旨が定められています。裁判例では努力義務規定とされていますが、その趣旨に反する取扱いは違法と評価され得るため、実務上は有給取得を理由とする不利益取扱いを避けることが重要です。
総務が知っておくべき実務対応|時季変更権を適切に使うために
時季変更権を使えるケース・使えないケースの判断基準

実務では“どうしても必要な場面かどうか”がポイントだよ。
代替案を提示する際のポイント
- 単なる拒否はNG
- 別日程の提示を検討することが望ましい
- 労働者の事情を考慮することが望ましい
労使トラブルを避けるための社内ルール整備
- 有給申請の手順を明確化
- 拒否できる条件を具体化
- 退職前の有給対応を整理しておく
現場でよくある相談例と会社の対応ポイント
「有給は会社が拒否できるの?」という社員の誤解

やっぱり“会社が決める”と思っている人、多いですよね。

そうなんだよ。だから正しい知識を持つことが大事だね。
退職前の有給申請が続いたときの会社対応

退職前の有給は、時季変更権が事実上使えないケースが多いよ。
時季変更権を使うべきか迷ったときの判断

“代替日を提示できるかどうか”を一つの基準にするといい。
NG対応をすると法的にどうなるのか
- 違法な取得制限と判断される可能性
- 労基署から是正勧告を受けるリスク
従業員側が取るべき対策(退職前の有給を確実に使う方法)
申請は書面で残す(証拠化)
メール・申請書のコピーを残しておくとスムーズです。
拒否されたときの確認ポイント
- その理由は法律的に正当か
- 代替日の提示はあったか
- 時季変更権の要件を満たしているか
※時季変更権が認められるかどうかは、会社側の主観ではなく「客観的に事業の正常な運営に支障があるか」で判断される点にも注意が必要です。
どうしても解決しない時の相談先
- 労働基準監督署
- 労働局の総合労働相談コーナー
まとめ|有給は労働者の権利。正しく理解すればトラブルは防げる
- 有給休暇は労働者が時季を指定できる権利(労基法39条)
→ 原則として会社は拒否できない。 - 会社が時季変更権を使えるのは“事業の正常な運営を妨げる場合”に限られる。
→ 「忙しい」「人手不足」だけでは足りず、具体的事情が必須。 - 退職前の有給は、代替日を提示できないため時季変更権が成立しにくい。
→ 多くの場合、労働者の指定どおりに取得できる。 - 引き継ぎと有給取得の関係では、法的には有給取得の権利が原則優先と解される。→ 労働者にも引き継ぎへの協力義務はあるが、会社都合のみで権利を制限することはできない。
- 会社は“拒否(時季変更)の理由”を具体的に説明し、可能な限り“代替日”も提示することが望ましい。
→ 理由を示さない一方的な「却下」は違法リスク。 - NG対応は行政指導・是正勧告の対象となり得る。
→ 申請書の受理拒否、不利益取扱い、退職理由での制限など。 - 従業員側は書面で記録し、拒否理由の妥当性を確認することが重要。
→ 必要に応じて労基署・総合労働相談へ相談も可能。 - 双方が制度を正しく理解すれば、退職前のトラブルはほぼ防げる。
※本記事は一般的な労働法上の制度についての情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する法的助言や専門的判断を行うものではありません。 具体的な対応については、弁護士または社会保険労務士などの専門家への相談をご検討ください。
